間もなく参院選が始まるのに振り返っている場合じゃなかろう、というお叱りも聞こえてきそうだが、選挙は選挙、全力でやるとして、改めて6月議会で問題となった秋田県立大学の増築問題について、整理したい。
まず、増築する中身、である。
これは、民間企業と教員が様々な研究開発などに関して打ち合わせをするようなスペース、学生が就職活動のために面談や相談をするためのスペース、そして、事務局スペースの拡張といったものだ。
県と大学は、これらを現在の事務局などが入っている既存の「管理棟」を増築し、スペースを作ろうとした。
個人住宅に例えれば、居間の窓の外側にもう一部屋増築しよう、というようなイメージで捉えていただければ幸いだ。
そして、この管理棟が「鉄骨造り、三階建て」であったことから、この増築も鉄骨で行うという設計で予算提案がなされた。
そこに、県議会では「秋田県は県産材の利活用を推進している。木造で作れないかどうかの検討はしたのか。していないならすべきだ。」という意見が大きく出た。
ここで注意したいのは、「何が何でも木造化しろ」と議会は言ったわけではなく、「検討をしろ。鉄骨と木造で比較検討して、その結果を示せ。」と言った点だ。
しかし、県側は、6月議会も残すところあとわずか、というタイミングで、1日か2日で、それまでの鉄骨造りを180度転換し、「木造でやる」と言ってしまったのだ。
そして、建築基準法などの関係上、木造で増築する場合には現在の管理棟に一体的に増築することができず、渡り廊下で繋いで別棟にする必要があることも明らかになった。
さらには、こうした木造建築とした場合、どの程度の予算になるのか、そのことについても、参考値は示されたものの、積算したものは示されることはなかった。
こうしたことに、議会のいくつかの会派が反発をし、予算の撤回を求めることになった。今回の県立大学の増築予算は一度取り下げ、再度、しっかりと検討し、9月議会に再提案してくるよう求めたものだった。
結果、新みらい、社民、民主、いぶき、共産党という5つの会派がこの増築予算に反対した。賛成したのは、自民、県民の声、公明党の3会派だ。
反対した会派が何より問題にしたのは、予算を提案してくるときに「木造」の予算を検討してこなかったということではない。
佐竹知事は、議会終了後の記者会見において、「事務的ミス、最初の段階の検討が足りなかった。」と予算要求や予算査定段階の事務的ミスのようのお話をされていたが、そのことよりももっと大きな問題があったこと、そのことを5つの会派が指摘したことを認識していないならば、あまりにも認識不足であるし、認識していてそのように話したのだとすれば、事務方への責任転嫁である。
つまり、5つの会派が反対したのは、木造の検討をしてなかったことではなく、「満足な積算もせずに、大学の教職員などの利用者の利便性なども考慮せずに、簡単に木造の予算に差し替わったこと」について、そのあまりの稚拙さ、あまりの軽さ、それを問題視したのである。
いったん上げた予算は、何が何でもひっこめたくない、そういうメンツにこだわり、とにかく木造にする、と言えば議会は予算を認めてくれるだろうという甘えの心理がありありと浮かびあがって私には見えた。
最大会派である自民党は、こうした手続きを問題視する声も一部にはあったようだが、結局、この予算を成立させた。積算もされていない予算を、予算として成立させることの問題は、県議会と県庁との間の「予算審議」がいったいなんなのか、という根本的な疑念を県民に抱かせる結果となったと思うし、単独過半数を占める自民党はこの結果について重い責任があるとも思う。
佐竹県政の二期目のスタートが、こうした「予算と呼べないレベルの予算」を成立させることで始まったことは大変残念だし、16名の議員がこの予算に反対した事実を佐竹知事はもっと謙虚に受け止めていただきたいと思う。
事務的に検討が足りなかったのではなく、まさに、政治判断、トップの判断として、未熟な「木造予算」を無理矢理、再提出してきたことについての「No」だったのだから。
ちなみに、今回結果として成立した「木造による増築。」
母屋たる管理棟からは、渡り廊下一本で繋がれ、まさに出島のような2階建て建築物となる。
その建物には今のところ階段しかなく、障がい者の方のためのスロープも、エレベーターもない。トイレもない。
こんな公共建築物として基本的な機能も備えていないような建築物を建てるという提案を「未熟な予算」と言わずして何と言おうか。
ただただ、学生、教職員、民間企業の方々など利用者に対して申し訳なく思う。こういう予算を止め、改めて利用者の声をしっかり聴いて設計しなおしてもらいたい、という真摯な願いが県当局に届かなかったことが残念でならない。