昨日、「雇用を増やすためには、県内企業が今より利益を上げる、モノが売れなければいけない」というごく当たり前のことを書きました。
今回の県の雇用対策で、私が最も気になったのがこの点でした。
総括審査でも具体的に事例を挙げて指摘をしました。
今、秋田県ではディスティネーションキャンペーン(通称:DC)ということで観光に取り組んでいます。
このDCは、JRグループが毎年、全国各地の「どこか」を選んで、そこに足を運んでいただくための様々なキャンペーンをJRとして実施するもので、来年度には秋田県がそのDCの対象となることが決まっています。
県では、来年度のDC本番に向け、この10月1日から、プレDCということで、キャンペーンをスタートさせています。
県が事務局を務めるDCの推進協議会では、今回のプレDCのために、観光ガイドブックを30万部印刷しました。
あまりピンとこないかもしれませんが、30万部というのは大変な量です。秋田県の全世帯数に匹敵する部数であり、つまり、一家に一部、というぐらいの量になるわけで、これの印刷費用となれば、1千万単位のお金が動くことになります。
こうした官公庁から発注される印刷物は、県内の印刷業者、印刷業界にとって、大変貴重な売上になることは言うまでもありませんし、まして、今回の内容は全県挙げての観光キャンペーンなわけですから、出来る限り秋田県全体での盛り上がりを図るという意味でも、印刷も県内企業にやっていただくというのが当然、望ましい姿だと私は考えていました。
しかし、今回の印刷では、県からの発注の仕様書(条件)として、「輪転機印刷」というものになっていました。
輪転機というのは印刷機械の一種なのですが、高速で大量に印刷でき、そのぶん、コストも安く抑えられるというものですが、この輪転機自体が大変高価な機械でもあり、実は県内の印刷会社では1社もこの輪転機を所有している会社はありません。
つまり、今回の県の発注では、県内に輪転機を持っている会社がないことを知りつつ、印刷期間の短縮とコストの圧縮という視点で、仕様書を作成したもので、結果、全国に営業支店を持つ大手広告代理店が、県内他社が競争できないような安価な価格で落札をしました。
そして、その代理店は当然、秋田支店に輪転機はないので、おそらく東京かどこかの輪転機を持つ印刷工場に下請け(再委託)して、印刷をかけたようです。
雇用対策、離職者対策、と言って助成金を積む一方で、県民からいただいた税金を県内企業に還元するどころか、わざわざ県内企業が価格競争で勝てないような条件をつけ、県外に需要や売上のタネを逃がしている、これは私は大変な矛盾だと感じ、総括審査でそのように指摘をしました。
「佐竹知事、一方で雇用の助成金を積み、一方で県内企業の売上を奪うようなマネをわざわざしている。これは県庁全体として、本気で雇用対策やる気あるのか、ちぐはくじゃないか。売上がなければ企業は一人だって新しくは雇えないのだ。」と。
佐竹知事は、これに対して、ハッキリと、「県内印刷業界は競争力が低い。むしろ、県外と戦って勝つぐらいの競争をしていってもらわないといけない。」というようにおっしゃいました。
県内企業の競争力、産業の競争力、それが必要なことはわかりきったことですが、しかし、それはまさに民間の競争原理です。
民間の競争原理を、官公庁からの発注や公共事業その他にそのまま当てはめるならば、むしろ県が企業間の価格の下げ合い、デフレ競走を助長するだけでしょうし、企業は熾烈な民間競争をやっていくための基礎体力さえ、奪われる可能性があります。
佐竹知事は、公約において、「バイ・アキタ セル・アキタ」と訴えました。
秋田を売り込む、そして秋田のものを秋田で消費する、買うという2つの意味が込められているはずですが、県内の消費、需要の循環や貴重なおカネを県内でうまく廻すという発想はどこかにいってしまったのかと大変残念な思いがしました。
私は、佐竹知事の視線が県外など、ご自身がアチコチに派手にセールスに飛び回ることに熱心なわりに、県内の中小零細企業のこうした細やかなニーズやシーズ、悲鳴や期待にはあまり関心を示されていないような気がしてなりません。
気のせいだと思いたいのですが、県庁職員の給与カットまでして実施する雇用対策こそ今最もおカネと知恵を絞るべき時のはずが、八幡平のクマを阿仁に移すために、10億近い県費を投ずるというのですから、もはや、関心事は人からクマに移ってさえいるのかもしれないと言いたくもなります。
今回、県が2年間で実施する離職者対策は40億円。その4分の1近いおカネを個人の所有物であるクマに投入するという判断を佐竹知事はされたのでしょうか。
今、何をすべきか、あれもこれも、ではなく、あれかこれか、であることは確かです。
私は、人に投資したいし、1つ1つの需要や雇用の芽を丁寧に磨いていきたい。
大企業の工場がやってくる時代はもはや終わった。
それなら、「ソコ」にある需要、商品、サービスを、地域で磨き、分けあい、外に売る、これしか方法はないのではないでしょうか。