インフレターゲット。
安倍総理が、就任早々に日銀に強硬に迫ったのは、「2%の物価上昇率(インフレ)を達成せよ」ということであった。
これを受けて、日銀は「異次元の金融緩和」に踏み出した。市場に出回る「円」の量が増え、円安が起き、輸出企業が儲かり、所得が増える。
しかし、そのシナリオとは裏腹に、為替は乱高下し、再び金融緩和前の水準に戻った。成長戦略もスローガンばかりで中身がなかったことにも市場は冷徹に反応した。
この2か月の金融緩和で誰が得したのかはわからないが、それは「誰か」であって、「私」ではない。それが大半の国民ではないか。
しかし、安倍総理は懲りない、止まらない。
今度は、「一人あたり国民総所得(名目)を10年後に150万円上げる」とぶち上げた。
国民総所得とは、国民(個人)や企業が稼いだ「儲け」だ。企業が海外で稼いだぶんも入る。
これを日本人の数で割る。昨年度で言えば、490兆円の総所得を、国民の数で割ると、1人当たり384万円となる。
10年で150万アップということは、これを534万にする。1.4倍だ。
これを達成するためには、毎年3%ずつ総所得が増えていかなくてはいけない。これが名目成長率3%、ということだ。
冒頭に書いた「インフレ率2%」と合わせて考えるとどうなるか。
名目成長3%のうち、2%は物価上昇。つまり、実質的な所得増加にはつながらない部分だ。
つまり、国民総所得を150万円を増やすと言っても、その大半は物価上昇で補うということである。所得上昇ではなく、物価上昇だ。
こういう実態なき「名ばかり成長」では意味がない。
そしてまた、意味がないだけではなく、長期金利の上昇や、それに伴い財政破たんのリスクがひたひたと高まっているということも忘れてはならない。